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2009年6月27日 (土)

逢えて自らの限界越えに挑んだ作品(「贖罪」 湊かなえ )

本屋大賞も受賞し未だに売れ続けている「告白」の作者湊かなえさんの最新作「贖罪」を読みました。初めに全体の印象を言いますが、これはデビュー作「告白」の手法と完全に同じで書かれています(一人称の口語体)。物語の舞台は夕方になると時刻を知らせるためにスピーカーから(グリンスリーブス)が流れるような長閑な片田舎。土着の人しか居なかったこの町に、大きな会社が工場を建てた事で街から垢抜けた家族が何組か流れ込んできます。子供達の通う学校にも都会から転校生がやってきます。その子を中心として自然と仲間になった5人が物語の登場人物です。ある夏の日遊んでいた校庭で、見知らぬ男に声をかけられ、連れて行かれた都会の子は、その数分後に殺された姿で発見されます。子供達はショックの為、男の顔や詳細を思い出せません(この辺りの設定は思いだせないのか、知っていて言わないのかが今ひとつ微妙な感じにしてあります)。結果犯人は捕まる事無く、殺された女の子の母親は引っ越していきます。その際に現場に居た四人の女の子を集め彼女達に「一生ゆるさない」というような恨み節をぶつけて去ります。ここまでがプロローグといっていいでしょう。そして時は流れて四人の少女は大人になり、それぞれがそれぞれの人生を送っているんですが、母親に言われた言葉が呪縛となり皆不幸な人生を送っています。一人一人の事件後の生活が短編で語られ衝撃のエピローグに向かっていきます。どうです「告白」読んだ方なら分かると思いますが、全く同じ手法です。これは本人が望んだのか、出版社に望まれたのかは明確ではありませんが、かなり危険な行為だと思います。元々「告白」「少女」含め湊氏の作品は掘下げ薄いのが持ち味。それが長所となり普段本を読まない人にも疲れさせる事無く読ませてくれる、そして衝撃のラストに向かっていくスピード感が生まれるんです。そこは流石だと思います。現に今回の作品もサクッと二時間で読了。しかし裏を返せば、深みがない為後々の印象が残りにくい。何となくのストーリーとラストの衝撃しか印象に残りません。まー本人がそれを望んで書いているんですから全く問題は無いんですけどね。しかし同じ手法の本をこの短いスタンスで出してくるのは、余程の自信家が馬鹿のどちらかでしょう。私は自信家とみました。それを分かった上で評価しますが、当然といえば当然ですが「告白」は全く超えられていません。今後もこのスタイルでいくのでしょうか?そうだとするといささか疑問が残ります。でも考え方によるとTVの二時間ドラマは未だに高視聴率をたたき出します。多くの方は深さよりもサラッとすすむ物語を求めているのかもしれません。その点を考えれば湊氏&出版社の戦略は間違っていないですね。ただ一番残念なのは「告白」には少しあった現実にあるかも感が、今回の作品からは全く感じません。完全なるフェイク(作り物)の世界です。そう理解して読めば普通に楽しめる作品だと思います。現実と重ね合わせた瞬間に突然チープな話になると思いますので。

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