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2008年3月13日 (木)

振り子の幅が狭い(「ゆりかごで眠れ」垣根涼介)

小説においてふり幅が大きいと、読んでいて声が出そうな位驚く事があったり、前半と後半の差が大きくて物語りに深みを持たせたりという効果が絶大だったりします。垣根涼介(かきね・りょうすけ)という人物が居ます。デビュー作「ヒート・アイランド」が映画され今乗りに乗っている作家さんです。現時点で垣根氏の傑作とされているのが「ワイルド・ソウル」という作品です。この物語は戦前に本当にあったブラジル移民の悲惨な実体を前半でジックリ描き出し、後半そんな無計画な政策をした日本政府に復讐すると言う痛快な物語でした。復讐とは言っても誰も殺したりはしない、軽快なクライム小説の完成形でした。この本の凄い点は、兎に角前半のブラジルでの壮絶な生活の書き方にありました。その分後半の腐りきった日本の実体や、主人公達のノリの良さが大きなふり幅になって活きていました。多くの賞も受賞し評論家にも読者にも大傑作として受け入れられました。そんな垣根氏が再び同じ様なテーマの作品を書きました。昨日読了した「ゆりかごで眠れ」という作品です。この作品も同じ様に前半は南米での日系人の悲惨な生活をじっくり描いてあります。一転して後半は現在での日本での話に変わります。この辺りの展開は「ワイルド・ソウル」と同じです。しかし大きな違いがあります。やはり今回はふり幅が狭いんです。故に後半部分の深みが薄い感じがします。前作と違い主人公は何の抵抗も無く人を殺すという設定ですが、その冷酷さも前半の悲惨さが浮き彫りになって活きていくる気がするのですが、前半の書き込みの弱さのお蔭でリアル感沸きにくいです。惜しい作品です。多分「ワイルド・ソウル」が予想以上に受け入れられたので、出版社からも似た様な作品を望まれたのでしょう。今回は50点。新機軸「君たちに明日は無い」が良かったので、今後は新しい展開を期待します。今回の印象に残った言葉は「愛は十倍に、憎悪は百倍にして返せばいい」という言葉です。イイ言葉ですが、今ひとつこの言葉の深みが伝わりませんでした。

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