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2006年7月18日 (火)

今だからこそ分かる事

先日誘拐作品の時に紹介紹介した岡嶋二人氏の「99%の誘拐」を再読しました。1988年に書かれたこの作品は、ミステリーマニアの間では名作との誉れが高く再版を物凄く望まれていた一冊でした。タイトルから分るように誘拐劇なんですが、その当時最先端であるコンピューター技術を駆使した非常に良く出来た作品です。今読んでも技術的な事に多少の古さを感じるだけで、ノンストップ一気読み感は色あせず堪能できます。その当時は感じなかったのですが今回物凄く感じた事がありました。この作品を出した翌年「クラインの壷」という作品を最後に岡嶋二人という名前はミステリー界から消えます。消える?事情の分らない人には何の事か良く分らない表現だと思いますが、(名前から想像できると思いますが)岡嶋二人とはペンネームで徳山氏井上泉氏の合作作品を書く時の名前でした(おかしな二人をもじって付けた名前だそうです)。デビュー以来二人の合作で20作品以上を書いてきた二人でしたが、この頃からコンビ解消の話が出ていたんだと思います。この「99%の誘拐」という作品もどうやら殆どを井上氏が書いたそうです。読み手としては面白ければどうでもイイ事なので、当時は何も気にしなかったのですが、解消という事実とその時の井上氏の心理状態を知った後に読むと物語の裏に隠された様々な想いが浮かび上がってきます。コンピューターを使って一人で完璧な誘拐を計画する主人公の姿は一人でも二役出来るという井上氏の決意の表れのような気がしてなりません。何があったのか知りませんが、長く続いたコンビを解消する決意は余程でないと出来ないと思います。この作品には独立を決意した井上氏の確固たる決意が投影されたパワーがあります。独立後は井上夢人として佳作を連発しています。今だからこそ分る事を痺れるほど感じた再読でした。

 

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